携帯電話を見ながら歩く

自転車に乗っていると、携帯電話のディスプレイに目を落として歩く人をよく見かける。メールを打ってるのかな?そういえば、先日、大阪の地下鉄で女性が駅からホームに転落したニュースを読んだ。原因は携帯でメールを打ちながらホームを歩いていて男性とぶつかったらしい。

「だから携帯は…..」とは言わないし、危ないとも思わない(いや、危ないといえば危ない)。それよりも、携帯電話と対面していると、「見えないモノがふえる」という認識がなくなるほうが私ならコワイ。認知や自覚が衰えるのではないかなんて思ってちとふるえる。

今なら桜が芽吹きだしはじめたり新一年生がオタオタ歩いている姿を目にする。下を向くので、それらが一切飛び込んでこなくなる。しょっちゅう待受とお見合いしているわけじゃないだろうから大げさかもしれない。でも、上下左右首を振りながら歩いていると(これはこれで危ないけど)、音や匂い、色や形が五感を刺激してくれる。

そこではじめて、「ああ、オレはこんなことを意識していたのか」や「アレ、なんで今の音が気になったのだろう?」なんて疑問が頭によぎり、そこから思わぬ発見があったりしてほくそ笑む。

別にそんなことどうでもいいやと思えばどうでもいいんだけど。そうそう、先日、山を越えてうなぎを食べに行ったとき、大谷団地というところを抜けていると、前から若い女性が犬を連れて歩いてきた。すれちがいざま、向こうから「こんにちは」と声をかけてくれた。驚いた。そんな風景はもう久しく体験していなかったから。それから数分、犬とヨシヨシしながらとりとめのない話をして別れた。

見知らぬ人に出会ったとき、警戒するよりも自分からあいさつする。そうすることで相手にコミュニケーションをはじめますよって身体で伝える。贈与の形式。

もし携帯電話を見つめて歩いていたらそんな贈与を受け取らなかったのだろう。前からやってくる携帯電話とすれちがいざま、サドルの上でそんな思いがふとよぎる。あぶないあぶない。前を向いて運転しなければ :[