ワンルームの狭いキッチン。
ラフロイグのトワイスアップを飲みながらタマネギを炒める。ステンレス台にノンブランドのロックグラスを置いたら、彼女はグラスを鼻に近づけた。ぼくはタマネギを炒めるふりしながら盗み見る。フレーメン反応みたいな顔。まさか恍惚じゃないよな。
タマネギを焦がさないようにじっくり炒める。ふだん使っていないコンロに期待してはいけない。ちょうど炒めやすい火ってあるんだ。自分だけが満足できるひねり具合。
グラスを手にとって一口なめる。ピーティかスモーキーかどっちだろ。ラガヴーリンやアードベックは? 自動運転は手にまかせて頭はアイラへ向かう。
「どんな感じ? もうそろそろいける?」
ハッとなってぼくと彼女はフライパンを同時にのぞきこむ。
「まだやな」
彼女はフライパンの下をのぞきこんで火をチェックする。またぁって顔がおもしろい。
「弱いよね」って言いながら、強へひねる。
「そんなことないよ」
カレーライスをつくるとくり返されるやりとり。録音したら同じ調子で聞こえてきてきそうだな。ステレオ音声みたいかも。一口なめながら笑う。
タマネギのデキがね、カレーライスを決めるんやってこと。ほんとの理由は別でね。お腹がまだあんまり空いてない。いつもそう。
ぼくが準備をはじめるころから、彼女のお腹はすでに臨戦態勢にはいっている。ぼくはまだ。ゆっくり炒めて、空腹の訪れを待つ。
「今日はもういいでしょ。ねっ」
彼女は鶏のもも肉の皿を持った。
「しょうがない」
タマネギを皿に移しかえた。火をコントロールする。強火。塩と胡椒。皮を焦がす。
「じゃがいもとニンジン、いいよ」
ぼくはもも肉をはしによせてスペースをつくった。彼女はそこへ置いた。もも肉からでたあぶらがなじむようにかたむける。
「ああ、いいにおい」
のぞきこんだ鼻からもれる音。ちがうかな、腹からの音か。
「よかったな、鶏肉のニオイは大丈夫そうで」
ジャガイモとニンジンと鶏肉を炒めてあとは…..。
ラフロイグを一口なめる。
彼女のお腹はもう待ちきれない。こっちのお腹はまだっぽい。そうだよな。ふたつのリズムがある。ライフスタイルやフードスタイルが異なるリズム。お互いのリズムがシンクロしたとき呼び合う。異なる時空のふたつのリズムを重なり合わせようなんてグリーディー。
リズムは合わないよ。合うわけない。合わないから合ったとき、ステキなライブが肉体を包み込む。リズムが重なり合ったときの忘我。
「もう、いいでしょ」
「OKかな」
ぼくはルーをいれはじめる。今日の出来はどうだろうな。最後までわからない。安定しないからおもしろい。タマネギは飴色でもルーに壊される。タマネギが透明でもルーが引き立たせたり。調和は偶然と必然の狭間に隠れている。
ルーから匂いが立ちこめる。なぁ、ここの換気扇、ダメだろって以前から彼女に注意していた。その換気扇が奇跡をはこんでくれた。
二つのお腹が鳴った。彼女のグーとぼくのグー。
ラフロイグを一口なめる。
カレーライスがふたつのお腹をグーって鳴らせた。