無情と知足

夢の中に現れる。驚いた。現実の記憶をもとに夢想の顔を描く。でも、それは過去の顔であって今は違うのだろう。

「逢おうか」とつぶやく。

夢の中で目の前にいる。なのに「逢おうか」と吐露する自分にふたたび驚く。「”とりあえず”逢おう」でも、「逢ってまた”はじめよう”」でもない。ただ「逢おうか」と。夢の中で顔をつきあわせても現実じゃないと無意識に気づいているのか。だから「逢おうか」と。

左側にいるあなた。私は首をひねってつぶやいたあと、ふたたび自分の顔を正面にむけ、じっと前を見る。前方にひろがる景色や周りの風景、なにも覚えてない。ただ、左側に座っていたあなただけを思い出す。

ずっと待つ。夢でも待つのか。

現実の記憶を総動員して描いた顔、夢のなか、そこにはおだやかな笑み。言葉を忘れ、ハッとする。

正面をみつめる。

待つ。

やがてあなたは口をひらく。

トクンと響く鼓動、返事を待つ。

その刹那、覚醒した。