[Review]: 合気道とラグビーを貫くもの 次世代の身体論

合気道とラグビーを貫くもの 次世代の身体論 (朝日新書 64)

持病の腰が悲鳴をあげている。二週間ほどまえから痛みがましてきた。どうやら今までと違うみたい。今回はてごわい。ただここ数年、持病とのつき合い方がかわってきた。脳のシワのエントリーで紹介したように「全体」を意識するようになってきた。つまり、「腰」だけでなく、全体のバランスが何かおかしいのだろうと。もちろん専門医の先生方からすれば笑止千万。それでも自分の身体の悲鳴に耳をかたむけると部位ではなく全体に目がいくようになった。仕方がない。

そんな矢先、先週読み終えた 『合気道とラグビーを貫くもの 次世代の身体論』 に興味深い一節に手が止まった。関心のある箇所を瞬時に読み分けたみたい。これがヒトの能力かと妙な気分。

違うよ、内田先生、あなたの右膝は性能が良すぎるの。あなたの体のなかでいちばん優秀な部位だから、ここで身体の全部の歪みを補正していたんです。全身の歪みを右膝ひとつで処理していたから、結果的にオーバーワークになって炎症を起こしているんだから、膝に感謝しなさい

『合気道とラグビーを貫くもの 次世代の身体論 (朝日新書 64)』 内田 樹, 平尾 剛 P.176

内田樹先生が出会った三宅安道先生(柔道整復師、三軸修正法治療者)による驚きの診断。内田先生は右膝に10年来の爆弾をかかえていた。5,6年前がピークだったらしい。その当時の外科医からは、「もうだめですよ、関節炎がひどくなってもうだめだ」と診断された。どうにもならなくなったら手術、それまでは湿布と言われ、とにかく革靴禁止・階段禁止・正座禁止の生活。武道なんで冗談じゃない。

そんな矢先に三宅先生と出会った。そのとき上の言葉を聞いて衝撃を受ける。そして「わたしが治します」と言って、約3ヶ月で完治させた。

内田先生は、「物語」の設定の仕方が違うのだと対談者の平尾剛氏(昨年度まで神戸製鋼ラグビー部に所属、2007年3月現役引退)に解説する。「あなたの右膝は痛んでいる。ここに患部がある」という外科医の物語を三宅先生は「あなたの右膝以外のすべての部位があなたの患部である」と書き換えた。

自分の腰がこの物語にあてはまるとは思えない。けど、本書を読むと、体の負荷や機能、(放言してしまえば)コミュニケーションの根幹は「身体」にあると納得。

私は学生時代にラグビーとバスケットボールをしていたので平尾剛選手の話す内容を体感できた。特にバスケットボールに置き換えるとわかる。たとえばパスひとつでもコミュニケーションが存在する。誰にも「同じパス」は通らない。メンバーによって、スピード・コース・タイミングの組み合わせは変化する。それを瞬時で判断してパスする。頭より先に反応する身体の仕組みがこの動作にあるのだと独断。ノールックパスも「見かけ」ではなく、理由があってやっている(はず)。「全体」があってパスがある。パスのためにパスしない。

じゃぁ、全体を把握する視座はどこからやってくるのだろう。気になる。そのヒントが次の一節にあるような。

数量的に考えてしまうと、運動能力というのは集中的に一定時間やればそれで変わるのかもしれない。でも、僕らがいま話しているのは筋肉のようなハードルのレベルのことじゃなくて、身体運用のOSレベルの問題だから。これって脳のなかの神経細胞のネットワークをいじる話だから、集中的に負荷をかけたらすぐにどうこうなるものじゃない。[…]僕自身、30年武道をやってきて思うんですけど、「継続は力なり」というのは本当で、短期集中よりも、ゆっくり長くやったほうがあきらかに技術は向上する。1週間集中してやって、1ヶ月休むとかそういうんじゃなくて、ペースを変えずに定期的にこつこつやる。そのほうが、明らかにOSを書き換える上では効果的だという気がするんです。

『合気道とラグビーを貫くもの 次世代の身体論 (朝日新書 64)』 内田 樹, 平尾 剛 P.168

ちょっとだけ違和感をおぼえる。「何も考えない」継続は力なりだろうか。OSを書き換えるだろうか。内田先生はルーティンがスキだとおりにふれて書いていらっしゃる。「自ら考える人」はルーティンのなかに潜む入出力の変化に敏感だ。わずかな変化を見過ごさず考える。ルーティンだからこそ「微妙」は目立つ。でも、「自ら考える人」でないならルーティンに溺れる。そんな継続が力になるのかどうか悩む。なぜこんな愚問が浮かんだかというと、 甲野善紀先生の名言、「常に上を、上を見ているとスランプにならない」にリンクしているような気がしたから。

「継続は力なり」と「スランプ」、その両軸が身体運用のOSを書き換える。そのときの自分は「いままでの自分をカッコに入れ」なければならない。なるほどなぁと。仕事にも使えますよ。もちろん腰痛にも(笑)

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