動じない18歳たち

第89回全国高校野球選手権が終わった。開幕戦を制した佐賀北がそのまま一気に頂点までのぼりつめた。最初から最後まで大舞台に立っていた主人公たち。もじどおり旋風をまきおこした。

asahi.com: 「がばい旋風」佐賀北 県立高、努力でつかんだ頂点

快進撃の裏には、たゆまぬ努力が隠されている。土台になっているのは徹底した基礎練習だ。「練習時間が短いことはハンディとは思っていない」と百崎監督。久保は冬場にチーム一走り、タイヤを引っぱった。体力をつけることで自信もつく。九州の強豪校と積極的に練習試合を組み、試合後は必ず選手自身が相手ベンチに出向き、よかった点、足りない点を指摘してもらった。

まったく動じていない18歳たちに惚れ惚れと見入る。あまたの選手のなかでもっとも印象に残ったのは、帝京の左腕エース垣ケ原達也投手。

Sponichi Annex: 横浜 帝京の垣ケ原を緊急リストアップ

準々決勝で佐賀北に敗れたものの、チームをベスト8に導いた。村上チーム運営部門統括は「ウチは左の先発候補が欲しいのは確か。垣ケ原くんはマウンド度胸がいいし、スカウトからの評価も高い」。

ベスト4進出をかけた佐賀北戦。下馬評では帝京有利。ところが、試合がはじまると、強打の帝京打線は沈黙し、延長にもつれこむ。垣ケ原達也投手は、当初の予定と違い、3回から登板。

延長にはいっても、テレビから伺える表情は、まったく動じていないかのよう。顔はこわばらない。ジタバタしない。延長突入、疲れがややみえる場面、腕の振りがいくぶんにぶくなり、制球が定まらなくても不安げな顔色を浮かべない。

実況によると、「エースの自分がおどおどしたら周りが不安になる」と常々口にしていたそうだ。

そして、野球はツーアウトからという言葉を地でいくように延長13回、佐賀北は3連打でサヨナラ勝ちした。最後のヒットを打たれたときも、垣ケ原達也投手はホームのベースカバーにはいっていた。普段の練習のとおりに。

サヨナラが決まった瞬間、ホームベースの後ろで立ち打たれた方向に目をやる垣ケ原達也投手。その表情がいくぶん崩れる。そして、終了のサイレンとともにわずかに涙がこぼれ落ちた。

それもほんの一瞬だった。整列するころには泣き崩れる選手たちの隣でエースの顔にもどっていた。

無表情と不動心の表情、表情がうかがえないという点で同じように見えるかもしれないけど、まったく違うと私は思う。無表情に伏流するのは感情なき無関心。かたや動じないエースの顔は戦っている。自分との戦いでもあり周りから支えられた闘いではないだろうか。

垣ケ原達也投手は、センバツで20奪三振を記録した大田阿斗里投手からエースナンバーを獲得した。それは周囲も納得のうえだったろうし、その納得が本人に重責を負わせ、不動の姿勢を掴ませたのだと推し量る。

わたしより半分の年しか生きていない18歳が、すでにわたしのはるか先の境地に身を置いている。その境地をわたしは知らない。どれだけ生きたかではない。だらだらと無為にすごせば、いくら年を重ねようがわからない。

不動心を獲得した18歳もいれば、不祥事におどおどしながら嘘に嘘を重ねて自滅していく大人たちもいる。

ほんとうにすばらしい18歳たちに感謝。