食は会食性は隠性

……….(中略)、なあ、自分で考えてゆうでみい、そこになんでかこうしてあるそのなんやかの一致の私は何やてほれ今ゆうてみい、わたしは歯って決めたねん、わたしは歯って決めたんや、おうおうおうおう歯やからゆうて阿呆らしいとか思うなや、歯はな、なめんな、一本ちゃんと調べまくったらその個体のしくみがまるままわかってしまうんや、全部ばれてしまうんや、歯はこれこの生命にとってな、最も最も最も最も本質的な器官なんや、そうやそやからわたしは決めたんや、命と本質と最もがわたしの中で一列んなってそれがずばっと歯やったんや、(中略)……….

『わたくし率 イン 歯ー、または世界』 川上 未映子 P.82-83

霊長類のなかで人間は食をオープンにして性をクローズした。食べるという行為を他者から見られてもよいとした。会食。性は他者から視られてはならない行為として隠された。霊長類では人間だけだと云う。他の霊長類は食を閉じて性を開いたらしい。

人間の歯は乳歯が抜けると永久歯が生える。一回だけチャンスが与えられる。一回だけ。二回目はない。

一度もチャンスが与えられない人間もいるのかな?
歯がはえてこない人はいるのかな?

噛む。歯があるから噛む。歯がない口で噛んだときの感触を想像したくてもまだできない。

人間は生命を噛む。生命が生命を噛む。歯は生命と生命をつなぐ。