徒然に過ぎ去る日を懐かしみ

皇子山公園の桜

04/19、奈良を散策。夕方、三条通りを西へそぞろ歩き、上三条町の交差点で北へ向かった時だった。正面から女子高生が日傘をさして歩いてきた。穏やかな顔。黒髪。黒の日傘。紺の制服と濃紺の靴下。白い顔。コントラストが素敵。彼女は28度の街中を涼しげに歩いていた。光が斜めに突き刺す。

日頃、女子高生が目に入っても脳髄や意識は起動しない。躰はスリープしたまま。あと数年もすれば娘のような年齢差になるのか、と吃驚するぐらい。

彼女とすれ違う時、すごく美しいと感じた。日傘をかざして優雅に歩く。外連味のない身のこなし。女子高生と日傘の組み合わせが珍しいか否かを僕は知らない。とにかく僕にとって非日常だった。

GR DIGITALを構えたい欲望を抑えながら彼女の後ろ姿を数秒見つめた。その時、脳髄が懐古の質感を起動させた。過ぎ去った日の懐かしみ。あなたの名を愛しき名を口ずさむ。黒い髪にはじめて触れた感覚が蘇る。白昼夢はあなたの優美な立居振舞を描く。甘い香り。時を支配した20年前の僕とあなたが演じる寸劇を時に支配された今の僕が楽しむ。

「やすらぎの道」を歩き終えると一瞬のやすらぎは放擲された。脳髄は白昼夢のあなたを保存してシャットダウン、徒然に過ぎ去る日へ別れを告げた。あなたの名を愛しき名を胸に抱き、躰はスリープした。