凡ミス

あやうく踏みそうになった

「凡ミスや…..」と僕が言えば、近ごろ相手は一粲するようになった。以前は、「凡ミス」という単語をあてはめなかった。現象的な凡ミスを犯すと、ひどく怒られた。ミスより恐かった。夕食時にお皿の場所を探したり、冷蔵庫にある調味料を見失ったり(というか居場所を知らない)すると、「お客様!」と叱責がとんできた。

それをどう茶化そうかと考えたあげく、ある日、「凡ミス」という単語が勝手に口から出た。相手は、爆笑した。たぶん、僕の言い方とひどくしょげている様子がおもしろかったんだ。そう解釈した。

それから我が意を得たりと、僕は「凡ミス」を定着させた。凡ミスはいつしか単語から「共通言語」に変わり、日常会話で使う凡ミスの意味から脱却した。まるで、「凡ミス」は僕の口を衝いて出るのをスタンバイしているようだ。僕もつられていつ使おうかと画策する。「凡ミス」は場をなごます役割を果たしてくれている。

特定の相手や特定の集団に対して使う「単語」がある。専門用語や難しい単語ではなく、平凡な単語たち。平凡な単語は一期一会のシチュエーションと出会い、突然、意味させる。僕はもうその単語を忘れられない。何となく使ってしまう。カワイイやつに変わる。やがて、単語から符牒へバージョンアップする。

だけど、気をつけなければならない。「特定」であるがゆえ、平凡な単語は他者を排除しかねない。言葉は武器か凶器か。願わくば前者の比率を上げていきたい。