空間を感じる歯科医院

キャラバン

「ひどいね。最近の状況は」

「業績はどうですか?」

「悪くなっている。保険収入も自費も減っている」

「なるほど。ところで先生は、空間を感じる時ってありますか?」

「えっ? 空間? なにそれ」

「上手く言い表せなくて申し訳ありません。なんと例えましょうか…..」

昨年末、ある方から食事をお招きいただき舌鼓を打つ。いくつか面白い話を耳にした。その中のひとつ、開業3年目(だったと思う)の歯科医院のマーケティングに身体が前のめり。景気悪化も何処吹く風、収入が大台突破。プロモーションのチャネルはウェブやインターネットに絞っているとの由。思わず、「収入が大台突破して経費が9,000万ってないですね?」と冗談で尋ねて互いに哄笑。

そんな話があるかと思えば、以前支援していた先生は、ウェブにさほど資金投入せず。ほとんどがクチコミだった。他にも事例があるな、と頭の中を検索する。そこから、「外部環境の影響を多少受けても成長(安定)している歯科医院」を思い浮かべた。

それらを3つのパターンに分類。それぞれ異なるカラーと認識。なので、3つの共通点は何かなと仮説を立てる。キーワードは「空間」。

今まで訪れた歯科医院のうち、「外部環境の影響を多少受けても成長(安定)している歯科医院」は「空間」を持っている。現場で空間を感じる。意識して「空間」を構築したからそうなったのか、医院のデザイン(原意のほうね)があって、「空間」を無意識に選択したのか、そのあたりよくわからない。

じゃぁ、「空間」って何だろう?

それは、ホストとゲストが同一の座標軸に存在する場所。

以前、矢場とんで食事をした様子を書いた。すごく美味しかった。だけど、何か違った。ホストと僕の座標軸が異なった。人は座標軸を持っている。千差万別。ボリュームと価格という座標軸を持っている人、ボリュームはほどほどで味が第一とか。はたまた、ボリュームと価格は二の次、味と店の雰囲気なんて人も。「店の雰囲気」と一口に言っても、方向はひとつじゃない。

先述のクチコミだけの医院へ伺うと、静謐がふさわしい現場だった。たぶん、お子さん連れの方は来院してないだろう。派手さはないけど洗練された院内は、何かしらの”層”を拒絶するだろう。僕はとてもじゃないけど相手にされないなと感じた。

そんな歯科医院があれば、反転した座標軸も。静謐とは無縁。だけど、穏やか。喧噪じゃない。子供の声はBGMになりそう。

内田 […]ぼくの主治医の三宅(安道)先生も電話で予約を受けつける段階で断る患者は断ってますからね。助手の人が電話に出て、先生が「どんな人?」「○○さんという方で、症状はこうこうで…..」「あ、断って」、そんな感じ。どんな症状か電話で聞いただけで治せるか治せないかわかるらしいんです。
名医って、治せる患者しか治さないんですよね。だから名医と言われるわけで。ぼくの通っている歯医者さんも、歯科医の看板出していないんですよ。患者にあまり来られちゃ困るからって(笑)。

春日 隠れ家的歯医者だ! (笑)

内田 ほんと(笑)。 知人の精神科医のクリニックもよく似てて、そこでも受付の女の子が患者のよりわけしてますから。電話の声を聞くだけで、「予約がいっぱいで…..」と断っちゃう。声を聞くだけで、うちの先生に治せる患者か治せない患者がわかるんですって。

春日 わたしの場合は、都立病院なので断れないんですよ。「診療拒否する気か」なんて言われちゃうしね。だから、いろいろ大変なんですよ。

内田 それはつらいですねぇ。何か手はないんですか?

“健全な肉体に狂気は宿る―生きづらさの正体” 内田 樹, 春日 武彦 P.162

話半分としても、これもひとつの空間だ、と僕は思う。空間の話をすると、「じゃぁ、どうすればいいですか?」と尋ねられる。その時、こう答える。

「先生が食事へ行くお店、旅先の店、服を書く店、車を買う店、身の回りのありとあらゆる店を思い出してください。その中に、ゲストとしての先生が感じる座標軸と、ホストの座標軸の共通点が見つかるはずです」

だけど、理解している。話はこんな一言でまとめられない。だから僕は呼ばれる。座標軸を言葉にするため。座標軸をウェブにするため。座標軸を表現するため。「座標軸」が現れてくれるまで僕は待つ。

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