[Review]: 近江から日本史を読み直す

近江から日本史を読み直す (講談社現代新書)

先週の土曜日、近くの皇子山公園へ散歩に。紅葉はもう終わり。いよいよ冬がやってきたなぁとそぞろ歩く。そのまま大津市役所-三井寺方面へ。道中、市役所の裏側にある弘文天皇陵に足を踏み入れる。

大友皇子はのち「弘文天皇」と諡され、その御陵は大津市役所の西側にある。江戸時代までは天皇の扱いではなかったが、明治初年に至り、承久の乱(一二二一年)で廃立された仲恭天皇(九条廃帝、懐成王)とともに天皇として皇統譜に記入された。ただ、これは水戸学的な名分論による立場からのもので、疑問視する学者も少なくない。

『近江から日本史を読み直す (講談社現代新書)』 今谷 明 P.38

静寂な陵と大津市役所の建物はみごとなディスプロポーションを演出。なぜここに永眠しようと決めたのか、周囲に飛び込んでくる景色を排除する。今立つ場所から琵琶湖を望めるか空想。ほんとうに不思議。天皇陵が自宅のすぐ近くにあるなんて。そんな環境だけど気づかないと素通りしてしまう。

弘文天皇陵のそばには新羅善神堂。国宝。自分の知を恥じる。知らなかった。存在自体。園城寺に目を奪われ、その片隅に佇む神秘な空間を見過ごしていた。

今回、散歩していると、民家の間から木々に囲まれた人手があまり加わっていないような森がとつぜん目に飛び込んできた。そして何だろうと歩み寄って知った。物音ひとつしない静寂と凛とした空気、聞こえてくるのは木々がこすれる音だけ。少し歩けば、「街」なのに、それを微塵も感じさせない。

あらためて歴史のなかに住んでいるのだぁと実感。

本書をめくると、はじめに「近江史跡地図」が掲載されている。滋賀県全域に点在する史跡が記されている。心底驚いた。こんなにもあるのかと。

湖西には古代の息吹、湖東には中世の破壊と創造。それらを見下ろす霊峰。わずか1300年ほど前に王家の争いがあり、1200年ほど前に延暦寺という寺号が許され、450年ほど前に天下布武を志した時代の寵児が焼き尽くした。ほんとうにそんなことがあったのかと意識しようとする。それには文字の助けが必要だ。

本書は古代から近代まで、「ほんとうにそんなことがあったのか」をガイドしてくれる。滋賀県在住の方なら場所を脳裏に描きながら読める。近くの方なら実際に訪れてみて新たな発見も。

どこの地域に住んでいても同じことがあてはまる。ふだんまったく気にもとめていない場所が歴史の濾過をこしてきた産物。そこから新しい発見があったり。運よく発見した自分は少し前の自分じゃない。一度、時空を超えた歴史の道程を意識して歩いてきたら、もう目の前にひろがる景色は異なる。同じようで同じじゃない。位相が異なって我の目に映ったとき、受け継ぎ受け渡す重さがずしりとのしかかる。

京都もいいですけど、ほんのすこし時間をとっていただいて滋賀県にも(笑)


Comments

“[Review]: 近江から日本史を読み直す” への2件のフィードバック

  1. おはようございます。
    京都に住むようになって歴史ファンの私としてもいろいろ行ってみたいと思っていた場所は沢山あったんですが、日々の忙しさに流されてそういった感性を忘れていってしまうんですよね(泣)
    滋賀県も日本のへそというだけあって歴史上では様々な史実が残されていて非常に興味深い地域ですね。確かに京都もいいですが滋賀に足を運んだときはそういった歴史にも触れていきたいですね。
    お忙しいとは思いますが、お体ご自愛下さい。

  2. Eさん、いつもコメントありがとうございます!

    おっしゃるとおり、滋賀県も史実が残っていて驚きです。近くの近江神宮をはじめ、湖西方面の和邇や小野の名前の由来など興味津々です。

    また滋賀県にお越しの時は、ほんのちょっぴり寄り道を(笑)

    Eさんこそご多用と存じます。季節がらご自愛くださいませ。