[Review]: 14歳の子を持つ親たちへ

14歳の子を持つ親たちへ (新潮新書)

「運動会が雨天中止になった。ついては遠方から見学にきた祖父母の旅費を負担してくれ」と学校に詰め寄る親。ブロゴスフィアは彼(彼女)らに”モンスターペアレンツ”なんてラベルをはったりする。理解を超えた存在だから”モンスター”なのかな。よくわからない。でもうまいなぁと感心。モンスターペアレンツが自覚していない(と受け取れる)ことが二つあると思う。一つはもちろん自分が”モンスター”だと自覚していない。もう一つはモンスターを育てている点。「モンスターを育てている」と書けば語弊か。とにかく子どもに与える影響を認識しちゃいない(と断言したらマズイ?!)。自己完結してるだけ。

典型的な例を一つ話しましょう。僕は日々、うちのクリニックに来るお母さん方と色んな話をしています。子どもさんの場合には、色々話をしてもちろん通じ合った場合には、その話の全体から僕が言いたいことを掴んでくれてるな、という感じがあるんですよ。「だから、これはこうしておこうね」っていう軽い結論さえ言えば、「他に聞きたいことある?」って聞いても、「うん、今日はこれでいい」と言います、子どもは。でも、親御さんに同じ話をすると、「結局だから私は、こうしたらいいですね」って、その話を百分の一ぐらいにまとめてしまう。それはそこしか聞いていないってことでしょう。

『14歳の子を持つ親たちへ』 内田 樹, 名越 康文 P.48

「そこしか聞いていない」親は可聴音域を広げない。”ノイズ”だと独断して「声」を掬わない。だから聴き手じゃない。そこにコミュニケーションなんてナイ。にもかかわらず、ウチの子どもはコミュニケーションできていないと不安を抱き、我が子を連れて名越康文先生のもとへやってくる。子どもへのカウンセリング。だけど実のところカウンセリングが必要なのは親だったりする。

僕ね、今まで何千人かの子どもと話して、「先生、結局こうしたらいいんですね」って聞いてきた子どもって一度も会ったことがない。ところが、「結局こうしたらいいですね」って言う親御さんには、少なくとも数百人は会ってると思うんですよね。

『14歳の子を持つ親たちへ』 内田 樹, 名越 康文 P.48

とにかくカンタンに話を終わらせたい。自分がわからない点を理解しようとするのじゃなく、わかる点(だけ)を「理解」する。輪郭が形成されていなくて語彙を持たない人の声は素通りしてしまう。そして、眼前の事象に「ムカツク」とだけつぶやく。「ムカツク、ムカツク」だけの感覚。

その結果、生まれた現象は何か? 名越先生が臨床現場の感覚から述べる。あくまで観察であって統計じゃない。

経済的な意味での「勝ち組」「負け組」はよく言われますけど、本当に深刻なのは知的な二極化…..。

『14歳の子を持つ親たちへ』 内田 樹, 名越 康文 P.78

「知的」が何を意味するのか吟味しなければならないと思う。ただ、やっかいだなぁ。己を鑑みれば氷解しちゃうけど、経済的な負け組の私は「目に見えて」体感できるし、数字に置き換えても確認できる。でも、知的な二極化は可視化なんてムリだろうし、数字で表現できない。気づいたら、「アレ、どうも最近の子どもたちは真っ二つだなぁ」と峻別される。それがじつにコワイ。家庭内の文化資本の格差。

しかも、この文化資本の格差は、同数が均等に引き裂かれるようなシロモノじゃない。ほんの一握りの階層と残り八割か九割ぐらいのマジョリティーに腑分けされる。前者がとても豊かな文化資本を享受する。後者の低下に歯止めがかからない。マジョリティーは集団内のいちばん低い水準に自分を合わせて、「なんだ、こんなもんか」と安住し、どんどん己の知的水準を低下させていく。

低下していることに気づかない。だって自分の周りに「豊かな文化資本を享受してきた人」がいない。もしその人たちに出会ったらどうなるか。東大はすでに階層化しているという。

ところで対談相手の内田樹先生。名越先生との対談がツボにはまったか、カウンセリングを受けているようなふるまいにわざと終始したのか掴めないけど、ひょっとしてコレ、ホンネじゃないっと思える部分がちらほら。それがこの対談本に辛口のスパイスをふりかけちゃってる。

この二極化はあらゆる領域で進行していると思うんです。日本人って、もともとすごく均質性の高い集団でしょう。だけど今では、均質性が保たれているのは低い階層だけで、上層はそこからスーっと抜け出している。上の方の、ほんの一握りの人たちが世界的な水準の文化資源や情報を享受していて、残された九十五%ぐらいは、「日本はみんな中流だよね」ってのんきに信じながらどんどん下層化してる。今どきのバカな大学生って、もう昔のバカ学生の比じゃなくバカですからねえ。

『14歳の子を持つ親たちへ』 内田 樹, 名越 康文 P.81

今どきのバカな大学生って、もう昔のバカ学生の比じゃなくバカですからねえ。と話したときの顔色、声色、仕草、トーン、身体から放出される雰囲気を目の前で見たかったと舌打ち。チッ。

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